電子音楽は、シュトックハウゼンによるStudy 2から初まった。Study 2は、そ
の音列の配置などを完全にセリーによって制御する、トータルセリエリズムに
よって作曲された音楽であり、当時の現代音楽における最先端の作曲技法だっ
た。つまり電子音楽とは、そもそも現代音楽のメインストリームから生まれた
ものだった。その時はコンピュータはまだ使われてなく、電子音楽とはテープ
を切り貼りして音を作っていた時代だった。
その発展としてコンピュータによる作曲にとりくんだのがクセナキスだった。
クセナキスは当時主流であったトータルセリエリズムに対抗するために、確率
的技法を用いて作曲をすることを考えた。確率的とは要するに乱数のことであ
る。トータルセリエリズムがあまりに複雑化していたが故に、結局乱数で作曲
しても変わらないと主張したわけである。これがおおよそ50年前の出来事であ
り、つまりコンピュータによる作曲技法とは約50年の歴史を持った、まさしく
古典的技法なのである。
その現代音楽から生まれた技法は、コンピュータ音楽という形で工学にとりこ
まれることになった。このときには現代音楽における、新しい音楽の追及のた
めの新技術の使用という文脈は無くなり、今までの音楽をコンピュータによっ
ていかに効率よく再現することができるかという工学的文脈に置きかわっていった。
それがMax MathewsによるMusic Iという音楽記述言語の開発へとつながり、
そこから音楽スクリプト言語の歴史が初まった。その発展の歴史の最新版が、
Csoundである。
そして当時IRCAMにいたMiller Pucketteは、そのMax Mathewsから名前をとり、
MAXという音楽開発環境を開発した。ここで、通常スクリプト言語であった音
楽記述言語をVisual Programming言語を用いた環境へと進化させた。しかしと
はいえここまでのMAXは、ある意味正統的な音楽言語の歴史をなぞっていたと
言えるのではないか。ヴィジュアルであるとはいえ、その中身は純粋な音楽記
述言語であったのではないだろうか。
そのMAXの開発に、かつてMという実験的音楽ソフトを開発していたDavid
Zicarelliが加わった。それによりMAXのインターフェイスは大幅に改善された。
そのことにより標準的音楽開発環境としてのMaxの地位は不動のものとなった。
ここにかつてのMにおける経験が大きく影響していることは言うまでもないだ
ろう。この地点において、実験的音楽ソフトの重要性を強調するべきなのだ。
Miller PucketteはIRCAMを離れPdを開発したが、実体としてはPdとMSPは同じ
ものだ。
しかしそのようなVisualな開発環境がIRCAMだけからしか出ていないわけでは
ない。マイナーながらも他の環境は存在している。AT&Tの研究所にいたTim
Thompson氏によるKeyKitがそれだ。KeyKitはVisualな環境といってもMAXのよ
うに言語の記述そのものをVisualにするというアプローチではなく、どちらか
と言えばインターフェイス環境を構築する環境である。
画面上にシーケンサーの部品のようなものを自由に並べていくことによって、
自分の作曲に必要な環境を自分の手で作ることができる。また個々の部品その
ものもKeyKitに内蔵するスクリプト言語で記述されているため、自由に変更し
ていくことができる。Tim Thompson氏はこの環境によって様々なアルゴリズミッ
クコンポジションを試みている。
またKeyKit上のアプリケーションとして、GeoMaestroは特筆すべきである。
KeyKitという環境の上にさらにGeoMaestroという環境を構築していて、その上
で様々なシミュレーションを行うことができ、それを音列として再生できる。
しかしそこで考えられているルールというものは普通の発想とは全く異なって
いる。ある空間を考え、その上での点の移動と位置関係の相違から音列が生成
されるという仕組みになっている。
ある意味クセナキスが考えた群衆の移動を音楽化した作品や、空間的な移動を
音楽化した作品の現代版とも言える。しかし重要な点はそのような音楽を作る
ためのソフトウェア環境を自分で作りあげてしまったことであり、また同時に
その環境を全てGPLによって公開している点である。
→KeyKit http://www.nosuch.com/keykit/
→Tim Thompson http://www.nosuch.com/tjt/
→GeoMaestro, Stephane Rollandin http://www.zogotounga.net/GM/eGM0.html
MAXは、今ではすっかり流行の物になったと言える。しかしその源流に遡り、
Csoundといったスクリプト言語による音楽にまで挑戦しようという人はなかな
か少ない。竹村延和はその数少ない一人である。
元々竹村延和はオーディオスポーツというグループにおけるDJとしてスタート
したが、実は彼の音楽は現代音楽、特にセリエリズムやミニマルの流れを大き
く取り入れており、その音楽は非常に構築的である。その彼は最近Csoundで音
作りをするようになっているという。彼はみんながMAX/MSPを使うような現状
に批判的で、むしろlispのほうが好きだと語っている。
→竹村延和 http://www.faderbyheadz.com/CROSSFADER/takemura/takemura1.html
http://www.net-flyer.com/edit/2001/12/special4.html